1998年 今週の意見 11月

今週の意見(90):

銀行家たちのモラル

 野中官房長官が記者会見で日本の銀行経営者のモラルのなさを非難した。金融早
期健全化法案成立にからみ、その趣旨に沿って主力各行が一斉に公的資金を積極的
に導入し、自らの自己資本比率を改善するとともに、貸し渋りを解消することを期
待したわけだ。ところが何社か公的資金導入を表明したもののそれがもう一つ遅々
として進まない状況を見て、怒り心頭に達したというところなのだろう。

  言うまでもなく、公的資金を導入するためにはそれぞれの銀行はその経営内容を
徹底的に情報開示することを求められる。と、なると公的資金そのものには魅力は
あっても、その経営内容を開示することに躊躇せざるをえない事情は想像できる。
経営者はその経営悪化の責任を追求されかねないし、なにより彼らの自ら会社を守
らなければならないという自己防衛本能、いやそれを大義名分として不良債権の真
の姿を見せたくないという気持ちが働いているにちがいないのである。で、なけれ
ばもっと積極的に手をあげて公的資金導入に踏み切るはずの状況なのである。

 モラルハザードなる言葉がある。公的資金など導入して銀行の経営悪化を防止し、
金融システムを安定化させることはいいが、それで銀行経営者たちのモラルがさら
に損なわれる状態を憂いたものである。これまで政府はとにかく今は火事が発生し
ている状況だから、まず火事を消すことだ、銀行救済が急務だとばかり公的資金注
入を優先させることに専念してきた。が、ここに来て、改めてその認識が甘かった
ことに気づいて、先の官房長官の発言となったわけだろう。

 そもそも金融システムが大変不安な状況になったのは誰の責任でもない。多くの
銀行経営者達の経営能力のなさと、経営モラルの欠如のせいであったことは明らか
である。まさにバブルの波に乗って安易な不動産投資へと走り多額の不良債権を抱
えてしまった責任はまことに大きい。普通の企業ならとっくに破産に追い込まれる
のに例の護送船団方式でいざとなれば政府が救済してくれるという甘い環境、認識
の下そうした体質、モラルの低下が結果としてできてしまったことも指摘するまで
もないだろう。

 もはや護送船団方式はなくなったはずである。長銀もついに国家管理のもとに置
かれてしまった。自ら経営危機を察知して情報公開を積極的に行い、たとえ経営責
任を問われようと、積極的に公的資金を導入して自らの経営を健全化に踏み切れな
い銀行は第二第三の長銀となることは必死であろう。すべての主力銀行の経営者が
経営者としてのモラルを欠如しているわけではないことを期待する。

 少なくともこれまでの大蔵官僚主導でことが運ばれてきた時代から、政治主導の
時代に入ったことは大きな前進であると評価するものである。

1998/11/1
Tadashi HAYASE
今週の意見(91):

パソコン新文化論

 11月3日文化の日。今年も文化勲章や文化功労者が発表された。文芸、学術、
絵画、音楽、芸能など各分野において功績をあげた人がその賞の対象であることは
いうまでもない。が、いつも思うことだが、どうも一般庶民から見るとなじみが浅
い人が多い。なじみという点では強いて言うと、文化功労者に選ばれた女優の森 
光子氏や、デザイナーの三宅一生氏位だろうか。

 庶民になじみ深いというと、通俗的というふうにとらえられるかもしれないが、
そうではないだろう。文化とか、その国を代表する文化とはその国の多くの国民の
生活、風俗・習慣、それもあえて良き風俗・習慣と言い換えていいが、その形成に
大きな影響を与えたものの総称であろう。そういう観点からいうと、いつも選ばれ
る受賞対象者がどれくらいその範疇に適しているかという点ではもうひとつピンと
こないのである。

 良き風俗、習慣、悪しき風俗、習慣などどう定義するか、それは大変難しいには
ちがいない。そして芸術、文化、学術などについて何が価値があり、何が価値がな
いかの基準設定はそう簡単でないこともわかる。さらにそうしたものの価値とは、
時代を超えて、国境を超えて、ある種の普遍妥当性の高いものであることもわかる。

 が、現代社会文化は今その内容において大きな変貌を遂げつつあると思う。また
その予兆があるという背景には、その表現する手段としてのメデイア自体が大きな
変貌を遂げているという事実があることは否定できないだろう。具体的には森 光
子氏の受賞など、テレビというメデイアの登場なくしてはありえなかった。

 テレビというメデイアの登場は画期的だったが、今日テレビ以上に新しいメデイ
ア、ニューメデイアが登場している。いうまでもなくインターネットや、その他新
しい放送メデイア、それにそれを支えるパソコン、パソコンネットワークを基本的
ツールとしたデイジタル技術がそれである。今後文芸、芸術、学術と言った分野に
おいてもその価値の大きさはこうした新しいメデイア、デジタル技術をどう利用し
応用するかが一つの大きなカギを握ることは当然である。

 そういう意味でパソコンを単なる家庭電化製品の一つとしてとらえるのでなく、
新しい生活文化の道具としてとらえるという考えや議論をもっと広げたいと思うの
である。

1998/11/7
Tadashi HAYASE
今週の意見(92):

効果ある減税策

 長引く不況の中でさまざまな減税策が議論されている。政府がこれまで実施して
きた所得税減税策は結果としてあまり、というか、殆ど効果はなかった。それには
いろいろな理由があろう。主な理由は減税があったところで、特に現在買いたいも
のがないということだろう。が、一番大きな理由は人々の先行きの生活に対する不
安である。雇用に対する不安、老後の不安、年金制度破綻への不安、などなどであ
る。

  そうした根本的な不安をそのままにしておいて、明確な道筋を示さないで、たか
だが平均数万円の減税をしておいて、さて消費に使えと言われても、結局それが貯
蓄にまわってしまうのは理の当然であろう。ましてや今自民党、公明党などの間で
検討されている3万円商品券の配布など、まことに愚かな考えだと言わざるをえな
い。3万円もらってそれを使うかわりに、その分また貯蓄にまわしてしまうだけの
話であろう。それを実施する方法が難しいとか、難しくないという問題ではない。
第一それが全部そのまま消費にまわったところで、その経済効果はたかがしれてい
る。

 経済効果が大きいのは、やはり消費が耐久消費財、例えば自動車、家電、それに
住宅などの波及効果の大きい分野であろう。自動車はもうある程度普及率が高いか
らそんなには期待できないが、後は家電、それもパソコンなどの情報通信機器関連
それと本命はなんと言っても住宅関連だろうと思う。

 こうした分野での消費を刺激する方法は何か。それは言うまでもなく、直接税つ
まり所得税減税よりも、間接税、つまり消費税の下げであろう。政党では自由党や
共産党が消費税を3%に下げることを提案している。両党とも今消費を刺激する最
上の方法が消費税の下げだという点で一致している。もっともその後自由党は一定
期間後、消費税率の再度引き上げ、しかもそれを福祉目的にのみ使う、福祉目的税
とすることを提案しているのに対し、共産党は場合によっては消費税を完全に廃止
することとしている点が大きくちがう。

 私は自由党案が正解であると思う。今なにより大切なのは景気対策、そのための
消費刺激が一番効果があるということ。そのためには消費税を下げ、耐久消費財な
どの効果の高い分野の消費を増やすこと。そして景気回復後はすでに破綻している
福祉、年金制度の財政建て直しのために、消費税を完全なそうした分野での目的税
として再引き上げすること。場合によっては今の5%以上、10%を限度としてそ
の程度の引き上げはやむをえないこと。こうした案ならば多くの国民のコンセンサ
スが得られるものと思うのである。

 それならば、問題になっている税の直間比率を是正し、しかも税金の無駄使いな
どを防ぐことができるわけだ。再引き下げで上げられた消費税は福祉目的以外には
使わないということだから、国民の納得も得られやすい。その場合お年寄りなど年
金生活者の負担を考えて、食料品など生活必需品については消費税率を5%に据え
置くなどの施策も含めて是非検討すべき案だと思う。

1998/11/14
Tadashi HAYASE
今週の意見(93):

新しい労働組合像を求める

 久しぶりの3連休、そして本年度最後の3連休でもある。週休2日で殆ど問題は
ないが、3連休だとまた何かと、いつもの週末でできることに加えて何か、別のこ
とができるのでありがたい。そして11月23日は「勤労感謝の日」である。いか
なる仕事、職業であれ、職場で働き、職場で役立ち、社会に役立ち、そしてそのこ
とで生活に必要な収入を得る。それで家族を養い生活を楽しみ、将来に備えて貯蓄
もする。そのことに感謝するという趣旨であろう。

 なんらかの職業につき、仕事をして、収入を得ることは、これまで当たり前のこ
とであり、そのことについて感謝する、などと言われてもあまりピンとこなかった
というのが多くの勤労者、特にサラリーマンの実感であったろう。
 
 ところが最近は違う。大不況の中、日本の失業率もついに戦後最悪の4.3%にまで
落ちこんだ。250万人もの人が職を失い、その中には一家の生活を支えている人
も多く含まれている。そして仕事を求めようとしても、有効求人倍率は0.49という
低率。つまり仕事を求める人、求職者一人に対し、それに応える仕事、求人は0.49
人分しかないということ。働きたくても仕事がないということである。

 日本では実際の潜在失業者はもっと多いと言われている。企業の中には本当は解
雇されてもしかたがない労働者がまだ沢山いるわけだ。多くの企業はそれを我慢し
て雇用し続けている。が、日本企業が伝統的にとってきた終身雇用制度も根本的に
見直されたり、崩壊し始めたというのが現実である。多くの企業はこれまである意
味で聖域であった雇用についても、生き残りのために手をつけだしたわけだ。正社
員、パートなどを含めて早期退職制を実施することはもちろん、指名解雇までする
企業も数多く出てきた。

 高度成長期、強力であった労働組合も今は全般的に力を失ってしまった。経営側
の人員削減のアプローチに殆ど抵抗もなくその方針を受け入れるだけである。いや
今は抵抗しようがないことはそうだ。が、すべて経営側の経営論理だけでことが動
いていいわけはないのである。そこには人員削減が行き過ぎの場合もあるだろう。
経営者は企業の存続そのものが根本であり、それを前提に雇用問題も考えるのは当
然だが、さまざまな経費削減の選択肢の中で雇用の確保をなによりも優先して考え
て欲しいわけである。それはある意味では日本的経営の特色であり、ある意味で長
所であった。そういう経営に対し、労働組合もまた甘え過ぎていたという側面は否
定できない。

 逆に今日では労働組合は総じてあまりにも無力化してしまったのではないか。経
営側の方針を殆ど丸飲みで受け入れてことが多いようだ。その意味でも今一度労働
組合の存在意義のなんたるか、労働者が団結して経営に対してある種の牽制機能を
果たすことの意味の大切さも今一度考えてみることだろう。もちろんそれはかって
の総評のような行き過ぎた権利主張の組合であってはならない。経営と協力しなが
ら労働者の立場で、雇用をはじめ労働条件を考える組合でなくてはならない。今こ
そそうした新しい労働組合像を再構築する時期ではないだろうか。

1998/11/21
Tadashi HAYASE
今週の意見(94):

ソーサとマクガイア

 再びアメリカの野球の話である。サミー・ソーサがアメリカナショナルリーグの
本年度MVP、最高殊勲選手に選ばれた。当然今年度ホームランの記録を更新した
マクガイアと争っての受賞である。新聞記者の投票で決まるのだが、その投票結果
を見て私は少し意外な気がした。

 あのホームラン記録更新の時、俄然話題を呼んだのはマクガイアであった。彼は
記録をなんと70本まで伸ばしたのだ。ソーサも記録を更新したものの、マクガイ
アに4本ほど差をつけられた。が、MVP選考の新聞記者の投票ではソーサが圧倒
的な差で選ばれたという。

 マクガイアはホームラン記録を更新しただけだが、ソーサはシカゴカブスを優勝
に導くべく、ホームランはもちろん総合的打点や走塁で大活躍したのである。した
がって、その年のMVPを選ぶとなるとそういう総合点がものをいうことはいうま
でもなく、なんの不思議もないと言ってしまえばそうである。が、なにせあれだけ
アメリカ中はもちろん世界中の話題を呼んだ点ではマクガイアが選ばれてもなんの
不思議もないはずである。が、結果はその当票差は圧倒的でソーサ。

 二人がホームラン争いをやっている最中、人種問題のことなども盛んに報じられ
た。そのことも含めて、MVPの投票に当たってはソーサの方がその点でも不利だ
と思われた。が、そのことも投票にはなんの影響もなかったようだ。

 私が言いたいのはそうした選考基準が極めて明確であり、しかもそれが新聞記者
達の頭にきちんとインプットされているということである。どういう選考基準があ
るかというのはよくわからないが、野球はいうまでもなく個人技のゲームであると
同時にチームワークのゲームであり、ソーサがその点で大きくマクガイアをリード
して評価されたということだろう。

 たかが野球ということなかれ。何事を選択するにしても、評価するにしてもそう
いう選考基準、少し大げさにいえば価値判断の基準が明確になっており、それによ
ってより、価値がより高いと判断されたものが選ばれるというのが、そうした選考
のための原則、さらにまた大げさに言えば民主主義の原点だろう思うのである。そ
れがまさに公平というものだ。その点でやはりアメリカという国の民主主義の成熟
度はたいしたものだと思ったのである。

 これがもし日本だったら日本の新聞記者はどちらのケースを選んだか。ちょっと
そのことに思いを及ぼしたわけである。政治を含めてさまざまな社会事象に関して
日本のマスコミの報道ぶりにときどきおかしさを感じるのはそうした選択基準、価
値判断基準がさまざまにぶれていることが多いのではないかと、敷延して考えてみ
たわけだ。

1998/12/28
Tadashi HAYASE

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